南の雄、ホーチミン

 ベトナムはかつて、南北に二つの国に別れていた時期があった。
北はソ連側の社会主義を唱え、南はアメリカ側の資本主義を唱えていた。
北の首都は、現在の首都ハノイで、南の首都が、ここサイゴンだ。
今は、ホーチミン・シティーと名を変更している。

今日は朝から一人でいられることがとても楽しみだった。
昨日のようなことは、もうゴメンです。
俺は、ガヤガヤとした通りをブラブラと歩き、屋台でフォーを食べたりしていた。
昨日の事もあり、お金がないのでT/Cを現金に換えなければ。と銀行へ向かった。
俺の中では、昨日のことは、もう片づいていたんですが、コイツには片づいていなかった。

 銀行に行く途中で昨日のシクロマンが血相かえてやって来て、なんか怒鳴っている。
どうも昨日のシクロ代を払っていなかったらしい。
気になってはいたが、やっぱり払ってなかったのか。
俺は今、金が全くなかったのでシクロのオッサンに「銀行に行ってから払う。」と言うと、オッサンが「銀行まで乗せて行ってやるよ。」と言う。
オッサンは俺が逃げると思ったのか、それとも銀行までのシクロ代を稼ごうとしたのか。
しかしオッサン、「タダでええよ。」と言う。そんなんウソに決まってるやんけ!
もし金払えって言ったら、言い返そうと思いシクロに乗った。

雨宿り中(ホーチミン)
郵便局前にて

両替を終え、出てくると、やっぱりオッサンは言ってきた。
「昨日、俺はお前ら2人を3時間捜したんだ!その分と昨日の使用料3時間と今の分を払え!!!」と言う。
クソッ!ムカツク野郎だ。
俺は「昨日の分は払うけど今日の分はタダやろ?アホかオッサン!」と言い返す。
そんで「昨日の分はなんぼや?」と聞くと、「1時間一人US2$で捜した分も含めて6時間で2人分だから、計US24$(350,000VND)払え。」と歯がいくつも抜け落ちて、汚い顔のオッサンが言う。
オッサン、シバクぞ!もっと歯、抜きたいんか!

確かに昨日のうちに払わなかったのは悪いが、3時間余分やぞ。
ほんまに、捜してたんかいな!?
で、何で俺が、彼女の分まで払わなアカンねん!
俺はとりあえず50,000VND払って逃げようとしたが、オッサンもろに怒りだし、あと5枚よこせと言う。
そこで近くで見ていた、バイタクの兄ちゃん登場。
あぁーあんたも悪徳シクロの味方をして、俺から金を巻き上げようとするのね。
と思いきや、「おい!オッサンそれは取りすぎちゃうんか?」となんと俺の味方に。

初めてベトナム人に味方をされた俺は強気になって、文句を言っていると、オッサン「にっ、250,000VNDでええわ。」と引いた。
「アホ!昨日の捜した分の3時間は払わん!」と俺はとっても強気。
そして200,000VNDになったが、ほんとは二人分で180,000VNDだ。
結局、値段は200,000VND以下にはならなかった。
俺もこれで彼女とオッサンと縁が切れるならもうええわと思い、200,000VNDを諦めて払う。
バイタクの兄ちゃんに相場を聞くと、外国人の観光はやはり1時間=US2$のようだ。だいたい30,000VNDだ。

戦争博物館にて。

しかしだ!やっぱり高い。(2人分なので)彼女は最後の最後まで金食い虫だった。
兄ちゃんはシクロはスピードが遅いからバイクにしな。と言ってきたが、断って、俺は一人で歩き出した。

 ホー・チミンCITYは大都会だ。中部のような純粋さはここにはない。
それに日本人がメッチャ多い。ゴールデン・ウィーク前だというのにこの多さには驚いた。
俺もカフェで一人の日本人女性と知り合いになった。

最近、日本語を話してなかった。というKeiさんと、2人でカフェで話をしていると、なんとダー・ナン、ホイアンで出会ったhiroさんが店に入ってきた。
何という偶然!声をかけ3人で話をしていると、このあとの行き先がhiroさんと一緒だったので、戦争博物館へ行くことにした。
俺ら3人は夕食を一緒に食べようということで待ち合わせをすることにした。

戦争博物館。俺はここで、石川文洋や沢田教一の写真を見ようと思っていた。
命を懸けて撮った写真はどれもリアルで、俺達に戦争というものを教えてくれた。
そして最後に一ノ瀬泰造の銃弾の跡があるカメラの写真があった。俺と同じ歳で死んだ彼のカメラは、ボロボロになって、悲しそうに、そして寂しそうに撮られていた。

そして6時になり3人で夕食。今日はリッチにレストランで食事。
一人の時はほとんど屋台で安くすませるが、やっぱり大勢で食べるのは楽しい。
いつも1本しか飲まないビールも今日は2本です。

ホーチミンにて

 食後、ファム・グー・ラオ周辺を3人でブラブラ歩いていると、ニャ・チャンで出会った学生nori君と出会い、4人でチェーを食べに行くことにした。
しかし僕らが行ったチェー屋はいままでの中で一番うまくなかった。水っぽい。
もう一軒行こう!ということになり探し歩いたが、チェー屋が見あたらなかったのでサトウキビジュースで締めることになったが、ここでオチというか、ベトナムでは楽しかった日にはいつも最後に何かある。

サトウキビジュースは最初に値段を聞いたとき1,000VNDだ。
しかし金を払うときになって2,000VNDと言ってくる。
初めから2,000VNDって言ってればいいのに、支払いのときに上乗せしやがるベトナム人は。
俺はその根性が大嫌いなので、文句の3つ、4つ言うがとても後味が悪い。
だいたい観光客を相手にしているヤツほど根性曲がっとる。
特にシクロマン。こいつらはウソツキヤローです。
一般の人々は、良い人や明るい人が多いのに、このギャップの差は、なんやねん!

さすが、かつての首都、ホー・チ・ミンだ。
ハノイよりもたちが悪いかもしれない。

経験者は語る

 俺が今日行った所はQuan2と呼ばれるエリア。
バイタクで行ったのが悪かった。何故、Quan2に行こうとしたのか?
Quan2はサイゴン川の対岸なのにガイドブックを見ても、何も載っていないし、何も書かれていない。
どんな所なんだろう?気になって、気になって。そして俺は・・・

最初は船で対岸に行こうとしたら、そこに行くまでにシクロがべったり付いて来て、もう、ウットーしくて、俺が朝飯を食っているときも隣にいて「こいつから離れたい」と思って近くにいたバイタクに乗った。
橋が近くにないのでバイタクではだいぶん遠回りになることは知っていたが、以外に値段が安かったので乗ってしまった。
しかし、もう30分近く乗っている。本当に目的地に向かっているのだろうか?
不安はあったが、もう俺はベトナムに慣れて大丈夫だと大きなカンチガイをしていた。
そして、今から起こりうることを想像することすら出来なかった。
これからベトナムへ行く人達のために俺が身をもって体験したことを恥ずかしいが書きます。

バイタクの兄ちゃんが疲れたので友達の家で休憩しようとバイクを止めて、言ってきた。
俺はここが看板があってQuan2だともう知っていたので「もうチョットやん。行こうや。」と言った。
しかしバイタクの兄ちゃんは「まぁ、ええやん。休もうや」と休憩したがるので、しかたなく休憩することになり、一軒の古びた葉っぱと竹で造られた民家に案内された。
俺はこの時、ちょっとヤバイ!と感じて、入るのを拒否したが、バイタクが大丈夫、大丈夫。と言うので、入ってしまった。

店の兄ちゃんはニコニコしているが、この雰囲気は落ち着かない。
一応イスには座ったが、店内は薄暗く、あきらかにヤバイ!と俺でもわかる。
もう出よう。とバイタクの兄ちゃんに言ったが、コイツはビールなんぞ飲み始めた。
俺は一人で帰ろうと思い、席を立った。その時!!!!!!
明らかに人相が悪く、目が血走った男が入って来て、俺の肩を掴み、俺を強引にイスに座らせた。

ホー・チ・ミンにて

そいつは紙に200$と書き、俺の目の前に置いた。
バイタクの兄ちゃんもビビッテいるが、俺は「はめられた!」と思った。
バイタクの兄ちゃんは俺に「コイツらはマフィアだ。金を払わなければ殺されるぞ。」と言う。
ブツブツ言っているバイタクの兄ちゃんに人相の悪い男が襲いかかる。
店の兄ちゃんがそれを止めに入るが、バイタクの兄ちゃんは持ち物全部を取られた。
バイタクの兄ちゃんは、「こんなシナリオと違うやんけ」という感じなのか、演技なのかビビッテいます。
俺も当然、演技ではなく、ビビッテいます。

 俺も初めは、冗談やろ!?と紙に書かれた200$のゼロを二つ消してみたが、ヤツは本気だった。その動作をした次の瞬間!ヤツは俺の胸ぐらを掴み、拳を俺の顔にあて一言。
「You Kill。」俺はこの時、やっと事の重大さに気が付いた。これはお遊びじゃない。
俺はポケットに入っている財布をヤツに渡した。財布にはUS80$と数万VND。

カードも入っていたが、ヤツには興味なかったようだ。ヤツは80$と50,000VND札、2枚を財布から抜き取り、俺に財布を返し、「まだ足らん!」と、日本円を要求してきた。
俺がまだどっかに金を持っているとヤツは知っているのだ。
しかし今日の俺は運悪く、カバンの中に、パスポートやお気に入りのローライ(カメラ)と撮影済みのフィルムを入れていた。これを取られたら、すべて終わりだ。

 俺が立ち上がると、ヤツが身構える。俺はもうあきらめて金を払うからと言い、1万円札を1枚出しヤツに渡した。
そしたらヤツはバイタクの兄ちゃんの分も払えと、もう一枚、要求。
もう一枚ヤツに渡し「All Money!」と言うと、ヤツ達は俺を解放した。
俺は店を飛び出すと店の兄ちゃんがやって来てバイクで送ってやると言ってきた。
コイツも当然、ヤツ等の仲間だが、ここがどこだか分からないし、もう金もない。
取られるものはなにもない。どこへ連れて行かされるかは、分からないが、人や車とすれ違えば、コイツのバイクから、無理矢理にでも、降りればいいと思った。

ホー・チ・ミンにて

予想とは裏腹に、コイツはちゃんと送ってくれた。しかし信用は全くしていない。
そして車が往来する道路に出ると、信用出来ないので俺は後からコイツの首を絞め、体を揺すり、ここで降りると言って降りた。
そしてここがどこだか分からないが、歩きだした。


目の前にタクシーが通ったので乗せてもらい、「今、金を取られてあとこれだけしかない。でもフェリー乗り場まで行きたい。」と言うと、タクシーのおっちゃんはタダでええよ。と俺をフェリー乗り場まで連れていってくれた。
有り金の一部をおっちゃんに払い、お礼を言って、フェリーに乗って、対岸に着いた。
たった1時間半の出来事だったが、凄まじく長時間に感じた。

 やっと帰ってきた俺は、ぐったりと座り込んでしまった。
側にいたベトナム人が俺を見て、お茶をくれた。何処の国にも良いヤツと悪いヤツがいるもんだ。
ファム・グー・ラオに帰って来たときは、本当に安心した。
金を払わなかったら、本当に殺されていたのだろうか?後から聞くところによれば、殺す確率が高いらしい。
殺された人もいるらしい。それに、こういうときの相場はUS200$らしい。
人間一人の値段がたったUS200$だなんて・・・
それに比べれば、悪徳シクロなんぞカワイイものだ。

 夜になり、俺とhiroさん、ここで知り合ったKeiさん、
そしてニャ・チャンで知り合ったnori君でご飯を食べに行き
今日のことを話したが、「絶対グルやって、お金以外は無事で良かったね。」と言われたが、
本当に無事で良かった。マジ怖かった。

だいたい海外旅行でこんな目に遭うヤツはアホや。と思っていたが、まさか自分がこんな目に遭うとは思ってもいなかったし、想像もしなかった。
ボッタくられた!ムカツクー!そんなん比じゃありません。

中部では楽しいことだらけだったので、ここに来て、すっかり警戒心が緩んでいた。俺達は旅行者だ。忘れてはいけない。
しかし今日の出来事は俺の範囲を超えていた。