上海オールナイト(前編)

     国際フェリーターミナルに着いた俺達は、バスに乗って税関まで移動し、入国審査をうけた。
    船内で取ったビザが貼り付いたパスポートを見せ、スタンプを押してもらった。
    ただそれだけだったが、中には、荷物の中身を調べられた人もいました。

     近代都市、上海を感じさせない、古びた感じがする国際フェリーターミナルを後にした俺は、一緒に蘇州号に乗って、上海に上陸したnob君、wan君、ama君と共に、地図を眺め、方向をそのつど確認しながら、浦江飯店をめざし歩き始めた。
    『浦江飯店』はドミトリー(大部屋)があるので、貧乏旅行者の俺達は宿泊費が安くなる。
    そう言う理由で浦江飯店に行くのである。

    中国随一の大都会”上海”は、社会主義市場経済主義が取り入れられて、近年、急成長を遂げた大都市であることは、蘇州号の船内から見ていたので、否応なく実感せざる得なかったが、俺達が歩いている通りには、もちろんビルも見えてはいるが、少し前の時代を感じさせるような民家や商店なども見ることが出来た。

    上海は清朝とイギリスによって行われた『アヘン戦争』で結ばれた条約、『南京条約』によって、外国に開かれた街であり、20世紀初頭には、欧米諸国の共同租界地となり、良くも悪くも、世界史において、名を残した都市である。
    『浦江飯店』もその頃に建てられた建物であり、その頃は『リチャード・ホテル』と呼ばれていた。
    重厚でドッシリとした外観のこの建物は、すっかり古くなり、傷んではいたが、租界時代の面影を残す歴史的建造物なので、いつまでもここに建っていて欲しいです。

    浦江飯店と5階のドミトリールーム

     さて、俺達の部屋は5階のドミトリールーム。
    運良く、俺達4人は同じ部屋に泊まることが出来た。
    部屋にはオモチャのような、俺の体型では収まることが出来ない小さなベッドが12個ほど置いてあり、そして使用不可能な朽ち果てた、ボロボロに亀裂がはいった浴槽。
    シャワーはすでに壊れていて、蛇口をひねると、お湯どころか水も出ません。
    トイレは少し水漏れがするが、まだなんとか使用可能であった。

    僕は、55元のドミトリーなので、「こんなものか」と納得しようと心がけたが、55元と言えば、日本円で900円くらい。タイ・バーツになおすと、300バーツです。
    何で、前回の東南アジアの旅で出会った旅人が、中国は旅をしにくい。と言っていた理由が、少しばかり、理解出来たような気がした。
    宿代が55元。900バーツで、こんな部屋。しかもドミトリー。
    この金額ならば、東南アジアでは、充分に個室が得られる金額である。
    中国の宿は、東南アジアの宿と比べると、歴然とした差があった。
    そう考えると、納得いかないが、不便があった方が楽しい。
    それに、ここからの眺めはバンド(外灘)が見渡せるというステキな眺め。

    上海外灘

     さて部屋もあっさり決まったし、上海を歩いてみましょう。
    蘇州号からずっと一緒のnob君、ama君と俺の3人でまず最初に向かったのは、上海に来てこれを見ないわけにはいかなと言うほど、とっても有名な大観光地、外灘(バンド)だ。
    外灘(バンド)は、欧米諸国の共同租界地時代に各国によって建てられた、その当時の高層建築が立ち並んでいる所です。

    黄浦江沿いの石畳が敷かれた、公園のような通りには、租界時代の高層建築群を眺める人達や、対岸に建造されている、現代上海を象徴するTV塔を中心にした近未来建築群を眺める観光客でごった返している。
    「メチャクチャ人が多い。」欧米人、日本人もチラホラと見かけるが、中国人が圧倒的に多かった。
    中国も黄金週間に入ったせいか、ここバンドはたくさんの中国人観光客や観光客を目当てにしている露店の呼び込みの人達など、いきなりの中国パワーを目の当たりにした俺達は、「すごい!、すごい!」と言いながら、初めて見る中国人の群と建築群に圧倒されていた。

    ここに来た中国人、外国人観光客のほとんどは、ポーズを決めて浦東新区のTV塔をバックに写真をパシャパシャ撮ってます。
    きっとみんな、僕らと同様に、ここからの上海パワーに圧倒されているに違いない。

    浦東新区
    南京路

     そして次に僕達が向かったのは、こちらも有名な南京路。
    通りは歩行者天国となっており、小さな電動の車が電車のように連なって、ゆっくりと観光客を乗せて、走っている。

    通りの両側には、デパートや外資系ファストフード店などが、今の上海を象徴するかのように、隙間のないくらい立ち並んでいる。
    出発前、中国という国は、色彩が乏しい所だと思っていたが、ここ上海は色が溢れていて、僕の予想とは裏腹に、想像以上に賑やかな所だ。
    中国人観光客の人達は、南京路の銅像や石碑をバックに写真を撮っております。

    バンド、南京路ともに、僕が泊まっている『浦江飯店』からは近いので、上海滞在中は、しょっちゅう来ることになるだろう。と、俺達は地下鉄に乗って、ここまで一緒だったnob君とは別れ、俺とama君は日本の租界があった辺りに行くことにした。
    1号線の地下鉄が上海駅に到着。今度は高架の電車に乗って、スタジアム前で下車。
    初の中国で、こういともあっさりと、交通機関を利用できるなんて、さすが、近代都市、上海です。

    上海虹口エリアにて

     ブラブラ歩いていると、やがて下町っぽい所になり、道の両側には露店がいくつも並び、街並みとは対照的な色とりどりの野菜が、所狭しと並べられており、道全体が市場になっていた。
    商品は蛙や鶏、野菜、魚などいろんな食材が売っています。
    そして、この臭い。クサイが懐かしい。俺はまたアジアに来たのだ。と感じられるこの臭い。
    建物も一昔前のレンガの建物が残っている。
    一歩、一歩と通りを歩いているうちに、東南アジアを思い出すような風景になっていた。
    こういう通りを歩いていると、やっと旅の感覚がよみがえってきた。

    しかし、この辺りは建物は老朽化と経済成長によって、取り壊され、高層マンションに建て変わっているところや、建設中の光景が目立っていた。
    きっと2、3年後、ここを訪れたら、大きく変貌しているのは間違いない。

    みんなとの待ち合わせ時間に近づいてきたので、俺達は浦江飯店の5階のドミトリールームへと帰った。
    今から蘇州号で出会った人達と晩飯を食べに行く。
    そして、上海オールナイトが始まる。