上海デート

     旅も慣れぬうちから、こんなことになってしまって・・・大丈夫なんでしょうか?
    上海に来てから、まだ3日目。
    蘇州号で出会った日本人達と同じ部屋に泊まり、彼等と時折、一緒に行動をするが、俺は、まだ東南アジアの時のような、マイペースを得られてはいなかった。

    「早めに、上海を発とう。」
    別に彼等と一緒にいるのが、嫌でも悪いわけでもないが、一人にならなければならない。
    そうしなければ、俺は俺の旅のペースがつかめない。
    これは、みんなと一緒にいたからこそ、わかったことだ。

    予定では、1週間ほど上海に滞在するつもりだったが、このまま上海にいるよりも、近場でもいいから、一人で別の街へ移動をした方が良い。
    そしてまた上海に戻ってきて、上海を歩けばいいんだ。
    自分の旅に、地に足をつけなければ。

    浦江飯店の最上階にある、床、壁、その他の物全てに、老朽化と言う言葉がピッタリと当てはまるような、12人ドミトリールームの白い、小さなパイプベッドに座っていた俺は、年季の入った、手垢でツルツルになったドアノブを回し、大きな木製の扉を開け、外へ出た。

    上海にて

     上海からの列車の切符は、取りにくい。
    しかも外国人だったら、なにかとめんどくさいと聞いていたので、俺が、列車の切符を取りに向かったのは、上海駅ではなく、最高級ホテル、花園飯店の2階にあるJTBへ。
    旅行会社に頼むと、20元(約300円)を手数料で取られるくらいなので、旅の最初は、旅行会社に頼んだ方が、得策ではないかと考えたからだった。

     行き先は悩んだが福建省の省都、福州に決めた。
    杭州などを通り、地道に南下をしようと、日本出発前は考えていたのですが、暑さが恋しくなり、一気に南下することに決めたが、出発日は、1週間後にした。
    この1週間の間に、俺は周庄、蘇州へと行き、再び上海に戻るという、小旅行を計画していたからだ。
    そして再び上海に戻ってきたときは、旅のペースが得られるであろうと思っていた。

     旅行会社を出た俺は、長袖の服を買いに淮海中路へ。
    5月初旬の上海は、思っていたよりも肌寒くて、半袖じゃ、寒いと感じていた。
    長袖の服は持っていたが、あいにく洗濯中であり、今夜は、あまり気乗りはしないが、出歩くことになっているので、半袖だと寒すぎると感じ、長袖の服を購入した。

     浦江飯店の部屋に戻ってきたが、部屋には俺以外誰もおらず、パイプベッドに座り、ボッケーとしたり、部屋の窓から見える、外灘(バンド)の景色を眺めていたりしていた。
    久しぶりに一人で行動し、次の行き先も決まり、切符の手配も済まし、俺の中で旅が、何かいい感じになってきました。
    今日は、このまま一人でブラブラしたいな。なんて考え、今夜の上海デートも、このまま行かんとこかと思っていたところ、静寂を破るかのように、突然、電話のベルが鳴り響いた。

    部屋の窓から見える、外灘(バンド)の景色

    俺しかこの部屋にはいないので、受話器を上げ「はい。」と日本語で言うと、電話をかけてきたのは、ama君だった。
    「僕は、部屋には戻らずに、直接待ち合わせ場所の和平飯店まで行きますので。」という事だった。
    今夜のことを楽しみにしている彼に対して、俺は断ることが出来ずに、待ち合わせ場所に時間通り行く事を告げ、電話を切った。
    「はぁぁー。やっぱり行かなあかんか。」俺は部屋を出た。

     待ち合わせ場所の和平飯店へ行くと、まだ誰も来ていない。
    貧乏旅行者が泊まれるようなホテルではない、五つ星の格式高い、ロビーへも見に行ったが、やっぱり誰も来ていなかった。
    一番やる気のない俺が、一番早く来てしまった。

     外へ出て、しばらく待っているとama君がやって来て、続いて女の子2人もやって来た。
    4人でご飯を食べに行きましょうか?ということになって、日本語を話すama君をナンパした女の子が、俺達に「予算はどれくらい?」と聞いてきた。やっぱり代金は俺ら持ちなのか。
    俺は上海に来てから初日の夜を除いては、1食10元以内で済ませているので、今日は特別にフンパツしてもいいかなと、大見得を張って「50元!!」と言ったが、女の子はそんな俺に対して少し怒り口調で言う。
    「そんなんじゃ、おいしい物は食べられない!」
    という事なので、行き先は彼女達にまかせたが、俺は不安でたまらない。

     俺の現在の所持金は157元しかありません。
    そして不安は見事に的中し、高級そうなレストランへ。
    俺は足早にこの場を去ろうかと考えましたが、そんな勇気はなく、席に着く。
    メニューを見ると、30元や40元なんて当たり前。やっぱり帰りたい。帰った方がいい。
    でも、この先、この場にいた俺がどうなるかが気になるし、今すぐに席を立って、帰る勇気なんて俺は、持ち合わせていない。
    結局、流れに身を任すことにした。

    外灘大橋と浦江飯店の夜景

     メニュー選びは、女の子に任して、7品くらい注文したが、出てきた料理に俺達はビックリ!
    ウマイ!メッチャおいしい。蛇のぶつ切りの揚げたモノやアヒルの舌、そして蟹ミソ麻婆豆腐など、うますぎて叫びたくなるくらいだ。
    食事中、彼女たちと話しをしたはずだが、何も覚えてはいない。
    料理の美味しさしか、俺の頭の中には残っていなかった。
    こんな美味しい料理が食べられるなんて、帰らなくて良かったーー。と心の中で叫んだが、支払いも叫びたくなるくらい高かった。わっおぉぉー!650元でした。
    ama君にお金を借りて、支払うことが出来たが、俺の所持金はあと7元になってしまった。

     食後はama君の意向で別行動ということになったが、俺は別に彼女と一緒にいたくはない。

    でもこのまま彼女にバイバイと言うのも悪い気がして、高級ホテルで両替を済ませた俺は、彼女と西蔵中路にある、スターバックスコーヒーへ行くことにした。
    この辺りにある、レストランバーは、今の上海を象徴するように、オシャレで高額な店が集まっていた。
    俺は、こんなことでお金を浪費したいとは思わなかったので、一番安そうなこの店へと入ったが、スターバックスコーヒーは1杯が20元という中国の物価を考えると、とてつもない価格であった。
    外のイスに座り、俺は彼女に日本のことや俺のことを、絵や漢字を使ってお話したり
    俺はまた彼女から中国語を教えてもらっていた。

     そうして俺が浦江飯店の部屋に帰ってきたのが、11時過ぎ。
    部屋仲間と今夜の出来事を話していると、ama君も帰ってきて、さらに会話はエスカレート。
    俺はama君にレストランで足らなかった分のお金を返した。
    ama君はあれからも、だいぶんお金を使わされたようだった。

     やっぱり彼女は、日本人はお金持ちで、知り合えれば、贅沢なことが出来ると思っていたようだ。
    俺は、前回の東南アジアでも経験したが、そんな価値観を持って、接しられると悲しい。