下町の中の観光地

     上海デートの翌日の今日、朝9時前だっただろうか?

    ホテルの従業員が物音を立てて、未だ、夢の中にいる、俺達の部屋、5階のドミトリールームにやって来て、「今から、この部屋を改装するから、別の部屋に移ってくれ」と言われ、無理矢理全員起こされた。
    今日、この部屋を改装する事なんて、俺達宿泊客は誰も聞いてはいない。
    まさに”寝耳に水”であった。

     俺は明日、チェックアウト(退房)の予定なのに、今から荷物をまとめて、部屋を変わらなければならないのが、とてもめんどくさい。
    なかなか動く気にはなれずに、ベッドで寝ていると、従業員が俺に「今日、チェックアウトするのか、それとも、もう一泊するのか」と聞いてきたので、寝言のようにもう一泊する事を告げて、しぶしぶ、荷物をまとめて、この部屋の下の階にある4階のドミトリールームへと移った。

     4階のこの部屋からは、外灘(バンド)が見えず、浦江飯店の前に建っている、ロシア領事館が見えるくらいなもんだ。
    「あーあ、5階の部屋はボロイが景色が良かったのになぁ。」と強制移動させられた俺達は、窓からの景色に対しては、残念がったが、きれいなフカフカの立派なベッドそして、お湯が出るシャワーに感激したのであった。
    このきれいなでフカフカのベッドを前にして、再び眠りにつく旅人もいましたが、俺はフカフカのベッドで2度寝をすることもなく、一人でカメラをぶら下げ、部屋を出た。

     今から、俺が向かう先は豫園(よえん)とその周辺である。
    豫園周辺を地図で見てみると、円形の輪郭が浮かび上がってくる。
    円形の道路は、中華路、人民路と言う名前がついているが、この二つの通りは、昔の中国の城、上海城の城壁だったという。
    と言うことは、ここが城下町であり、昔の上海風情が残っていそうな気がする。

    豫園付近にて

     近代化した上海は、日本とあまり変わらない環境であり、僕のような旅行者にとっては、つまらない。
    高層ビルが建ち、所狭しとファーストフード店やコンビニが立ち並ぶ風景は、日本と同じであり、異国へ来た。と言う感動的な気分にもなれない。
    中国へ来たからには、僕らが知る、中華風の建造物や街並みを見て、通りや路地を歩いてみたい。
    豫園周辺へ行けば、きっとそれに出会えるであろうと思い、僕は外灘を黄浦江沿いに歩き、中山東一路と中山西一路が交わる交差点を渡り、豫園へと近づいていった。

     名所豫園はすでに大観光地となり、中国人観光客や外国人観光客でごった返しています。
    俺も一度だけ豫園に入りましたが、庭園の一部分が工事中であったため、そこにはブルーシートが掛けられていて、それにによって旅情緒がうち消された。
    そして庭園の周りの観光地用中華風建築お土産屋や食堂に群がる人々の多さに耐えることが出来ず、サッサトその場を離れてしまった。

     上海随一の観光地、豫園をほんの少し離れると、まるで数十年前にタイムスリップしたかのような、一昔前の中華風下町が、僕の目の前に現れた。

    レンガで作られた住宅、白く塗られた壁の上には、黒に近い灰色の瓦屋根の家。
    車がすれ違うことが、困難であろう現代からすれば狭い道幅の通りには、リヤカーに自転車を取り付けた乗り物にたくさん商品を積み、商売をしている人達。

    角の焼鳥屋?みたいな所には、紺色の制服を着ている下校中の小学生達が取り囲んでいる。
    はな垂れ小僧も無邪気に遊び、ヒマそうなおっちゃん達はみんな集まって中国将棋やトランプで暇つぶし。


    左右の家々からは洗濯物が飛び出していて、上から水滴がポタポタ。
    果物売りのおばちゃんの周りには、果物の皮があたりまえのように捨てられていたりと、超急激に進化したバンド周辺や浦東新区と比べると180度回転したような世界が広がっている。

    豫園の周辺の下町には、観光客もおらず、ここは中国・上海の雰囲気が充満している。

    俺が思い描いていた中国の街並みを目の当たりにして、嬉しく、やっと俺らしい、カメラをぶら下げ、街をブラブラする旅が始められる。そんな風に感じ、歩き出した。

    お腹がすいたら、屋台で中華風クレープとでも言うのでしょうか?
    決して甘いお菓子ではないのですが、薄い生地に野菜やソーセージなどを挟み、クレープのように巻いた物を食べたり、
    細い路地が市場になっている所では、今後、南下をすればきっと役に立つであろう、缶のふたで作った蚊取り線香立てを船内で教えてもらった中国語を使い、1元で購入したりと、行き当たりばったりであてもなく、歩き続けた。
    きっともう、一度来たところは、二度と行くことが出来ないのだろう。
    迷路のような路地を限りなく迷子に近い状態でブラブラとあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと歩いていた。

    夕食時になると、少し幅の広めな道が市場へと変貌し、人々の活気がある声が鳴り響いている。
    お肉、お魚、野菜、など今晩の夕食は何にしましょうか?と、みなさんが迷うくらい食材は豊富。
    俺もこの市場で買い物をして、料理などやってみたいですが。
    そんなことは出来ないので、一軒の食堂へ。

    上海の路上散髪屋

    メニューは漢字で書いてあり、意味は理解出来るが、発音がわからないので、俺は指をさして、注文している。
    今日は河南牛肉麺(3元)です。
    麺はその場で兄ちゃんがバンバンと麺を打ってくれて、隣の鍋で茹でてくれます。
    スープも少し辛くて、牛肉も柔らかくて美味しかったです。

    夕食も食べ終わり、日もだいぶん傾いて来ていたので、トボトボと食事の支度をしている民家を眺めたりしながら、帰っていった。
    明日は上海を離れ、周庄に行きます。
    今日は早く寝よう。