雨の周庄

     朝、8時くらいに目が覚めた。
    今日は、何時に起きようが上海を発ち、周庄へ行くつもりだ。
    天気はあいにくの雨だが、さほど強くは降ってはおらず、傘を差せば問題なさそうだ。
    6人部屋のドミトリールームには、まだ眠っている旅人もいたので、あまり物音を立てないように、僕は静かに荷物をまとめ、そっと扉を開き、たくさんの旅人達と出会い、思い出深い宿となった、浦江飯店を後にした。

     浦江飯店を出ると、雨足は、さっきよりも強くなっていたが、僕は気にすることもなく、重たいリュックを背負い、折り畳み傘を差して、外灘(バンド)大橋を渡り、南京路の地下鉄の河南中路站(駅)を目指して、ゆっくりと観光客や通勤中の人混みの中を歩いた。
    僕が持っているガイドブックによれば、周庄へは、青浦というところまでバスで行き、そこでバスを乗り換えて周庄へ。と書いてあった。

     僕は地下鉄に乗り、黄陂南路站に着き、青浦行きのバス停を探したが、ガイドブックに記載されていた地点からは、バスどころかバス停さえもなく、
    通勤途中のビジネスマンにバス停を尋ねることにした。

     忙しい朝にもかかわらず、紺色のスーツを着た、ビジネスマンは、僕を近くにある、バス案内所まで連れて行ってくれた。
    「謝謝。」とお礼をして、ここの職員にバス停まで案内してもらいました。
    バスは、最新版のガイドブックとは違うところから出発していた。
    地下鉄の黄陂南路站に着いたときには、周庄へスンナリ行けると思っていたが、このガイドブック。ウワサ通り、オチが付いていた。
    今後、僕は今回の旅で、いかにこのガイドブックの情報が正確さを欠いているということを身をもって知ることになった。

    周庄にて

     青浦行きのバスに乗り、バス代(6元)を払い、1時間ほどバスに揺られること上海市青浦区青浦に到着。
    ここも上海市なんですが、市中心部と比べると、賑わいはなく、空の色と同様な建物が並んでいる。
    ここでバスを乗り換えなければならない。「周庄行きのバスはどれ?」と尋ねると
    あっちや!向こうや!それや!と、たくさんの人が教えてくれました。
    ここからバス(8元)は、霞がかった田園地帯を1時間半ほど走り、周庄に到着。

     バスを降りると、たくさんの客引きが押し寄せてきます。
    人力三輪車に乗って、観光しないかや、良い宿を紹介するよ。と言う感じ。
    俺は、中国も東南アジアと同様に、こんなことをするんだと知って、チョットびっくり。
    ホテルの客引きも当然いたので、俺は名刺をもらい、三輪自転車に乗って、町中の宿に到着。
    ニコニコとした愛想のいい、オッチャンが出迎えてくれていて、部屋を見せてもらうと、とってもキレイだったので、ここに1泊することにします。

     周庄は、上海市に隣接している小さな街ですが、ここの住所は、江蘇省昆山市周庄鎮。
    そしてここ周庄と言えば、運河が張り巡らされた、中国国内有数の明清時代の水郷古鎮の一つである。
    漢字の「井」のように張り巡らされた運河の側には、白壁、濃い灰色の屋根瓦の家々が建ち、軒先からは、赤い提灯がつり下げられている。


     観光用の交通手段は、人力三輪車があるが、周庄はとても小さいので徒歩で十分です。
    僕は、それには乗らずに、カメラをぶら下げ、運河沿いの道を歩きだした。
    どうやら赤い提灯がつり下げられている建物は、お土産屋やレストランのようだ。
    その建物の先には、石造りの橋が架かっている。
    その橋の下は、半円形の門のように船が往来できるように造られており、ここが周庄のかつての出入り口だったのだろうかと思いを馳せる。

     細長い石垣で築かれた、運河沿いには、所々に階段がもうけられており、昔は、ここで洗濯などをしていたのであろうが、今は地元の人達が掃除用の水をバケツに入れたり、スケッチブックを持った学生が、そこに陣取り、思い思いに筆を走らせている。
    運河には、観光用の小舟が団体客を乗せて、行き来しているが、周庄も上海同様、あいにくの天候のため小舟には、お客が雨に濡れないように、ビニールシートが掛けられ、せっかくの水郷観光も皆の期待を裏切るような結果となっている。

    僕も、船に乗って水郷観光をしてみたいと思っているのですが、今日は止めた方が良いと思い、とりあえずは値段だけでも確かめようと、先ほど売店で買った、周庄の地図を持って、船の切符が売っているところを目指した。

    運河沿いの道をしばらく歩いていたが、いくつかの角を曲がり、石橋を渡ると、道幅はすでに狭くなり、もはや路地と言った方が良いような、家屋が建ち並んでいる通に入った。

    僕は、規則正しく敷かれた石畳の道を歩き、雨に濡れている小さな石橋を渡る。
    石橋の足下には、細かな模様が彫刻されている石橋もあったが、こういう天候の時には、滑り止めとしても機能もあるのでしょうか?

    僕は、滑らないように石橋を慎重に渡り、木造の舟屋に着いた。
    ここから観光用の小舟が出ているようなので、切符の値段を確認すると、なんと80元(約1,300円)もします。

    そして建物見学の総合切符は60元(約1,000円)もする。

      この金額は僕の想像をゆうに超している金額。
    これでは両方は無理だ。どっちか選ばなければ・・・
    貧乏旅行者故のしょうーもない悩みなのかもしれないが、これが僕の経済事情でもある。

     翌日はまたもや雨。しかも昨日以上に降っています。
    僕は、周りがビニールシートで覆われている小舟での水郷観光を諦めて、建物の総合切符を購入し、藩庁、張庁、迷楼や澄虚道院などの古い建物を見学した。
    どの建物も外からは想像できないくらいに、中は広く優雅である。
    迷楼と言う、古くはないが高い塔からの眺めは素晴らしく、時を越えても変わることのない周庄の水郷の街を見渡すことが出来た。

    帰りに、ここの名物らしい、草餅団子を食べた。
    緑と橙色のお団子が、笹の葉の皿にのせられていて、色合いがとてもキレイだったが、
    味は、んーっん?って感じでした。

     僕は午前中の周庄見学を終え、ここからほど近い所にある宿へ戻り、荷物を受け取り、人力三輪車に乗ってバス停へと向かった。これから僕は、蘇州へ行きます。
    周庄、1泊2日の旅は、天候に恵まれてはいなかったけれども、雨に滴る、歴史ある水郷鎮周庄も、風情があり、晴れの時とは違う表情をしていたのではないでしょうか?
    でも、今度ここへ行くことがあれば、是非晴れていて欲しいと思う。


     人力三輪車に乗りながら、後ろ髪が引かれる思いで、僕は周庄を後にした。
    バスターミナルに着くと、次の目的地、蘇州行きのバスは、すぐに見つかった。
    周庄から蘇州まではバスで1時間半くらい。(14元)
    車内で知り合いになった中国人少女2人と筆談や片言の日本語でおしゃべりしていると、時間はあっと言う間に過ぎ、蘇州のバスターミナルに到着。
    俺は彼女達に別れを告げて、客引きのオヤジの車に乗り込んだ。

    1元=約15.6円