午前0時バンコク着

 これから長期間の旅に出るというのに、僕には全く緊張感がない。
今は関西空港へ行くバスの中だが、これからの事を考えても期待も不安もなかった。
何故なんだろ?こんな気持ちで旅に出るのは初めてだ。
あまりにも何も感じない自分が怖かった。

韓国のインチョン(仁川)空港を経由し、バンコクに着いた時も何も感じなく、異国の地に降り立った。という感動的な気持ちもない。
そして、どことなしか僕は冷めていた。

しかし、入国審査を終え、荷物を受け取り、外に出た僕は急に汗がたくさん出てきた。「なんじゃ!この暑さは」さすが東南アジアだ!
冷めていた僕の脳みそが急に熱くなった。

さてと、これからどうしようか?金は5000円(約1700バーツ)を両替したので、大丈夫だと思うが、どうやって街中まで行きましょうか。
深夜にバンコクのドン・ムアン空港に到着したため、電車もなく、バスもない。
そんな事を考え、空港をウロウロしていると、タクシーのおっちゃんに拾われて
500B+高速代20Bで、バックパッカーの聖地カオサンロードに到着。

 もう時間は午前1時だというのに、この活気には驚いた。
人々は、裸電球のライトの下、屋台で飯を食っている。ワイワイガヤガヤと。
そんな光景が、いくつも群をなしているようだ。「これがカオサンか。」
すごいなーと思う反面、僕には、ここに入り込めるだろうかという不安がよぎったが、これだとどっかに宿はあるだろう。

大丈夫。大丈夫。と心を入れ替え、内心、ビクビクしながらも、誰か声かけへんかなと、僕は映画『ビーチ』のディカプリオになったかのように、カオサンロードをブラブラと歩いていた。

と、そこに、エジプト人と言うアクセサリー路上店販売員が声をかけてきた。
「ゲストハウスを探しているのか?俺が一緒に探してやるよ!」
彼は本当に一生懸命にゲストハウスを探してくれた。しかしどこも満室でなかなか見つからない。
カオサンロードから離れ、お寺の裏側の通りへ行くが、7軒目でやっと見つかった。
ツインルーム260Bだ。(Fan、TV付き、共同シャワー)

カオサンロード付近の焼き鳥屋台 右:7件目で見つかった宿

この時の僕は、相場も知らないし、疲れていたし、OK!と言ってチェックイン。
重いリュックをベッドの側へ降ろし、やっと落ち着いた。ハア〜。エジプト人君ありがとう。
君と会わなければ、僕はきっと途方に暮れていたであろう。

 エジプト人君に「ありがとう。」とお礼を言うと、そしたらエジプト人君、
「一緒にビールを飲みに行かないか。」と、俺を誘う。
こういう事だったのね。君には感謝してるし、ビールの一本くらいおごってやろうと、彼のいきつけの路上売店へ、しかし彼はほとんどビールを飲まないのだ。

何故?と聞くと、「俺はアルコールが苦手だ。飲めないんだ。」と言う。
オマエほんまええヤツやなぁ。宿を探してくれたし、そのうえいきつけの店まで紹介してくれて。
もう一本飲む?次はおごるよ。とエジプト人君が言う。
疲れたのでもうええわ。と言って、彼の店へ。

 エジプト人君自作のアクセサリーがカオサンロードのある一角の路上に並んでいる。
これでもかっ!というくらい欲しいと思わないアクセサリーばっかりだったんですが、お礼の意味も込めて、なんか買ってやりたいが、どうしよ
う。
結局、エジプト人君が身につけている、お気に入りのリングを無理矢理購入。
ごめんね、エジプト人君。これしか欲しい物がなかったの。
お世話になったエジプト人君と別れ、ゲストハウスに戻ったのが午前3時。
ベッドで横になり、眠ろうとするが、暑くて眠れない。

こんな風に、僕の旅の初日は過ぎていった。

*1バーツ=
約2.8円

あっちこっちバンコク観光(1)

 暑さのため、起きては寝るを繰り返し、朝8時になった。
旅立ちから2日目。結局、4時間も眠っていない。
今日の僕の行動予定は、ベトナムビザを取るために、旅行会社へ行くことだ。

なにわともあれ、まずはお金が必要なので、カオサンロードの両替所へ行くが、朝9時のカオサンロードは、店がほとんど閉まっており、閑散としている。
当然、両替所も閉まっていたので、しかたなく開くまで、その辺をブラブラと歩いていると、タイでは、なくてはならない乗り物、トゥク・トゥクの運チャンが、「観光しないか?」と僕を呼び止めるが、僕は「あいにく、今はお金がないんだよ。」と言って、断っていた。

やっと両替所が開き、僕は1万円を両替し、ベトナムビザを取るために、旅行代理店へ。
自分で取る。と言う方法もありますが、旅の初心者は無理をせずです。
4日後にビザが出来、5日後に出発することに決めた。
バンコクからハノイまでの航空券片道4400バーツ、ベトナムビザの値段は2100バーツ。

合計で日本円にして18200円くらい。
さっき両替をしたが、足らなかったので、再び両替をして代金を支払った。

自分の中では、かなりの大仕事と思われた、ベトナムビザ&航空券の予約も、いともあっさりと終了し、これから4日間は観光に励もうとガイドブックを見ながら、王宮前広場を歩いていると、タイ人で学生という、ちょっと胡散臭そうなヤツと知り合った。

僕が今から王宮(ワット・プラ・ケオ)へ行くと言うと、彼は午後2時からそこで、イベントがあるから、その時の方が良いと言い、それまで僕が勧める寺院を見学したらいい。と言う。
いくら僕が旅の初心者であっても、これは何かあるな。と思っていたけども、正直、僕も時間を持て余していたので、行ってみようかと思い、僕は、彼が勧めるトゥク・トゥクに乗り込んだ。

王宮(ワット・プラ・ケオ)

 トゥク・トゥクに乗ったのは、この時が生まれて初めてだった。
バンコクのネットリとした空気から、解放されるように、風を受け、喧騒の街を走り抜けてゆく。
トゥク・トゥクって、気持ちが良いね。なんて思いながら、2つくらいの寺院を見てまわった。

初めて目にするタイ寺院は、日本の寺院のような、わび、さびのような情緒はなく、屋根は、緑や赤、オレンジ色など派手であり、中へはいると大理石の床、鎮座する黄金の仏様。
仏様の前に花を添え、お祈りをする、タイの人々。
日本とは違い、とても色鮮やかである。

「なんて信仰心の厚い人達なんだろうか。」と僕は感心するが、全ての人達が、このように心清らかなわけではなく、僕をここへ連れてきたトゥク・トゥクの運チャンもその一人だった。

運チャンが、僕を次に連れて行った場所は、政府公認?の宝石屋でございます。
やってくれたな、学生君。あんたと運チャンはグルだったのね。
貴金属や宝石に全く興味もなく、金もない僕に、スーツを着た店員が近寄ってきますが、全く買う気がない僕は、そそくさと店を出た。
運チャンは「もう出てきたのか!」と言う感じで不機嫌な表情をし、次の寺院。デッカイ大仏がある寺に着いた。
僕は、気持ちよくココナッツ・ジュースを飲みながら見学を終え、門の前へ帰ってきたら、運チャンは、僕に「30バーツだと、ここまでで終わりだ。」と告げ、30バーツを要求してきました。
僕も「こういうことだったんだ。」と解り、30バーツ払って、バイバイ。

王宮(ワット・プラ・ケオ)

 しかし、ここが何処だか分からない僕は、暑さで歩くことを考えず、やって来たタクシーにすかさず乗り込み、王宮(ワット・プラ・ケオ)へ。
建築物はどれもすばらしく、タイ寺院あり、西洋建築あり、そして光り輝く金色の仏塔。
仏像なのか、何かの神様なのかわからないが、その姿形もユニークで見ていて飽きない。
石で造られた、アンコール・ワットの模型も見ることが出来た。
1時間半くらい見学していた僕の顔や腕は、すっかり日に焼けて、赤くなっていた。

門を出ると、客引きが寄ってきますが、他にもターゲットが大勢いるので、
しつこくはなく、あっさりと立ち去っていきます。
僕は、今日はこれくらいにしておこうと、日が少し傾いた空の下、光り輝く王宮を背にして、
ゆっくりと広場を歩き、カオサンロードへ帰った。