休息の日〜ラサでの出会い

     旅立ちから35日目。朝、7時半頃に目が覚めた。
    共同トイレ&洗面所は、準備をするのに時間がかかるし、少しは気を遣うので、嫌いだ。
    歯を磨き、冷たい水で顔を洗い、コンタクトレンズを入れて、準備完了。
    朝食は、近くの食堂で、お粥と肉まん。

     僕の旅は上海から始まったが、ラサに着くまでの間、一人も日本人旅行者には会わなかった。
    これが、珍しいのか、どうか知らないが、一ヶ月以上の間、日本語で会話をしていなかったのだ。
    元々、お喋りなヤツじゃないので、全く、苦にはならなかったけど、ラサに来て、日本人に会うまで、気が付かなかっただけです。

     そんな俺が、ラサで初めて出会った日本人AD君は、俺と同じように、ゴルムドからラサに来た旅人だったが、なんと日本を発ってから、まだ10日しか経っていないと言う。
    ラサへは、ゴルムドからバスで来たと言っていたので、上海から、ゴルムドまでを7日間で移動したことになる。そして彼は、約10ヶ月で世界一周をすると言っていた。
    この移動距離を考えると、世界一周に10ヶ月もかからないような気もするが・・・
    そんな話しを、中華食堂で回鍋肉炒飯と水餃子を食べながらしていた。

    バルコル周辺の町並み

    その後、二人でバルコルを歩き、露店を物色。
    俺は、ここでチベットに来たら、是非とも欲しかった、チベットの民族衣装のチュパを購入。
    結構、重たくてかさばりますが、着ると、とても暖かそうです。
    そして次は、チベットのお家の出入り口に掛かってある、カーテンのような物を購入。
    カーテンは、数日後、日本へ郵送したが、チュパは、ネパールまで持っていました。
    AD君は、何も買うことなく、俺達は、宿に戻り、明日、サムイェ・ゴンパに行くことを約束し、お別れ。


     俺は、部屋には戻らずに、さっき購入したチュパを、宿の売店で、着てみましたが、けっこう着るのが難しくて、結局は、宿の人に手伝ってもらって、やっと着られるようになった。
    そして、チュパを着ての記念撮影をしていると、売店でネットをしていた、日本人女性に声をかけられ、しばらく立ち話。

    日本人女性のTinaさんは、ラサに来て、1ヶ月だそうで、この宿を拠点に、いろいろな場所へ行っているらしく、2、3日、ドミトリーのベッドを空けたりしているそうだ。
    彼女は、ラサには、今回が初めてではなく、何回か来ており、ラサは、休息の場所だと言っていた。
    今日のTinaさんは、休息の日なので、これから一緒に、バルコル周辺の路地をブラブラすることにした。

    小雨が降る中、僕達はバルコルから脇道へ逸れ、賑やかな路地を歩く。
    粘土で、仏像を作る工房を見学したり、路上に並べられた食材を見たりしながら、何か、いつもの俺の行動パターンと、あまり変わらないような気もしない感じで、ブラブラと歩いた。

    (左)ラサの食堂 (右)スノーランドホテル

     そして今晩は、Tinaさんとレストランで食事です。
    今日の昼といい、今までずっと、一人での食事だったのに、今日は、珍しい日です。
    何を食べたかは、日記に書いてなかったので、覚えていないが、話しは、やっぱり旅の事、日本での事。
    Tinaさんは、写真を撮るのが好きで、カメラもいいものを持っているし、フィルムもポジを入れており、気合いが入っています。
    数日後、コーヒーを飲みながら、写真を見せてもらいましたが、センスの良い、優しい写真でした。


     写真を見せてもらった日に、出会ったのが、アメリカ人のBen。
    Benは、俺がTinaさんに会う前から、Tinaさんを知っていたようなので、3人でバルコルを散策。
    俺は、またもや買い物をしてしまった。
    チベタンが、バルコルを歩くときに、右手に持っている、マニ車です。
    大きな、マニ車は、何かと不便だなと思い、小さなマニ車を買い、それを右手に持って、左手には、数珠を持って、バルコルを歩くが、アメリカ人のBenがやった方が、チベタンの反応がいい。

    Benは、どうやら、麻雀パイが欲しいらしくて、バルコルの店を物色しているが、麻雀パイなら、中国人街の方が売っているのでは、と言い、僕達は、人力三輪車に乗って、キチュ川沿いにある、中国人街の麻雀パイが売っている店へ行き、無事に麻雀パイを買うことが出来た。

    夏の離宮、ノルブリンカ

    時間も夕飯時だったので、この辺りの食堂で晩ご飯を食べることにした。
    今晩のメニューは、砂鍋米線(鍋焼きうどん風)です。
    この店は、中国人がやっていることもあり、チベット語、英語が通じず、3人の中で、一番、中国語が話せる俺が、珍しく大活躍。ただ単に注文しただけだが、ちょっと嬉しかった。

    Benは、このような店で、ご飯を食べたのは、初めてらしく、最初は戸惑っていたが、最後には、美味しいと言い、串焼き肉も数本食べていた。
    食後、3人でタクシーに乗り、宿近くのカフェ、アナザープレイスと言う名の店で、元バーテンダーのBenが、俺達2人にカクテルを作ってくれた。

     ラサに来て、まだ数日だが、旅人と出会い、話しをしたり、ご飯を食べたりと、普段一人じゃ出来ない行動を共にする。
    日本に居てもそうだが、やっぱこういうことが、一番、楽しいんじゃ、ないでしょうか。





    巡礼バスに乗って

     まだ日が昇っていない、早朝5時45分、ドミトリールームのドアをノックすると、AD君が出てきた。
    今日は、AD君とラサ郊外にある、サムイェ・ゴンパへ行く。

     俺達は、まだ夜中と言っていいくらいの、暗さの中、ジョカン前へ行き、サムイェ・ゴンパ行きのバスに乗った。四川省のチベット文化圏にいたときも、そうだったが、ラサに来てから、北京時間というものに、更に違和感が増してきた。夜明けが遅く、日が沈む時間も遅い。完全にずれている。

    バスが出発したのが、午前6時50分。予定より、20分遅れただけだった。
    夜明けの、ラサを走り抜け、乾いたうす茶色の大地に一本の線のように敷かれた、黒いアスファルト道を走り、バスはツェタン(沢当鎮)へ。サムイェ・ゴンパへ行くには、ここから橋を渡るため、迂回をするらしい。ガイドブックには、船で川を渡り、そこからトラクターに乗って、という道順だと書いてあったが、バスだけでも行けるようだ。
    そして、サムイェ・ゴンパに到着したのは、出発から約5時間後の、午後12時頃だった。
    ここは、チベット人にも外国人にも有名な所なので、駐車場には、バスやランドクルーザーが数台、止まっていた。

    サムイェ・ゴンパ

     サムイェ・ゴンパは、建物の配置が、仏教の宇宙観を示した、曼陀羅(マンダラ)の形を取っている、珍しい寺院で、創建は8世紀にもさかのぼり、現在のサムイェ・ゴンパは、18世紀にダライ・ラマ7世が再建し、1945年に修復されたものだ。

    入場料の40元(約600円)を払い、俺達は、ゴンパの中へと入っていた。
    お堂の中には、マニ車がズラリと並び、壁画が一面に描かれているが、かなり傷んでいる。
    壁画の一部が剥がれていたり、黒ずんでいたりと、こんだけ有名で、高い入場料をとっているならば、もっと手入れしたり、修復するべきである。あまりにも無惨だ。

    建物の中に入り、写真を撮っていると、僧侶から「10元だ!」なんて言われたが、「日本人だ!」と言い返すと、「好きなだけ撮っていい。」と言われたので、バンバン写真を撮ってしまった。
    ほんま、チベットでは、中国人は嫌われています。

    本堂の中の、千手観音は、とてもキレイだったし、上からは、白、黒、赤、緑色をした、チョルテンが見える。それぞれ意味があるらしいが、なんとなく殺風景な風景に、好奇心が湧いてこず、時間がかかると思われた、サムイェ・ゴンパ見学は、1時間ほどで終了した。
    丘に登って、このゴンパの全景を見ることも出来るようだが、二人とも、そんな気が湧いてこずに、来たバスに乗り込んだ。


    僧坊の壁とマニ車の回廊

     そして待つこと1時間、やっと人が集まり、出発。
    また5時間もバスに乗るのかと思いきや、何か来た道とは違うところをバスは走っている。
    どうやらこのバスは、単にラサとサムイェ・ゴンパを結んでいるバスではなく、サムイェ・ゴンパなどを巡礼するための、巡礼バスのようだ。
    そしてこのバスが、サムイェ・ゴンパの次に向かったのが、タントゥク・ゴンパ(昌珠寺)。

    タントゥク・ゴンパは、ツェタンから南へ7キロに所にある、チベット最古の寺院らしく、2万個の真珠で作ったタンカで有名な寺院だと知ったのは、ラサに戻ってきてからであり、この時の俺は、「また入場料か、今度は30元!」と聞いて、なんかやる気もなく、道路をかっ飛ばす、ランクルを見て、早くラサに戻りたいと、完全にやる気をなくしていたので、ゴンパには入らずに、門前で、座り込んでいた。

     全く予想外のタントゥク・ゴンパを後にして、その次に向かったのが、これまた俺達にとっては、予想外の所、ユンブ・ラカンだった。
    ここ、ユンブ・ラカンは、小さな山の上にある宮殿で、チベットで最初に建てられた、建築物と言われているが、創建当時の物は、何も残っておらず、現在の建物は、1982年に再建されたものだ。

    サムイェ・ゴンパの壁画

    またここでも、入場料がいるので、無料の所まで行ってみようと、俺は、丘の上の宮殿を目指し、息を切らしながら登っただけあって、景色はすごく良かったが、早くラサに戻りたいと思っていた。
    今から、バスに乗って帰ったとしても、夜の10時頃になってしまう。
    元々、こんな時間になる予定ではなかっただけに、早く戻りたい気持ちが強かった。

    やっとバスは、ラサに戻ることとなり、9時前にして、やっと夜になった、風景を眺めていた。
    星がキレイだが、あれはオリオン座だ、それ以外の星座は、わからないし、腹が減った。
    ラサに戻ってきたのが、予想通りの午後10時。

    今日は、なんでか1日ツアーのようになってしまったが、他の人たち(巡礼者達)と、距離があって、あまり楽しめなかったが、予想外にいろんな所へ行けたので、まぁ良しとしておこうと、部屋に戻り、3日間、置きっぱなしのビールを飲んだ。